宇宙放射線による微小核形成を介した血管内皮細胞への影響- 公募研究 2018-2019
研究課題名 | 宇宙放射線による微小核形成を介した血管内皮細胞への影響 |
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研究代表者 |
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研究協力者 |
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居住・産業活動を目的とした長期の宇宙空間の滞在では、滞在者は長期にわたり宇宙放射線にさらされうる。宇宙放射線を構成する電離放射線は細胞核内のゲノムDNAに二本鎖切断を生じさせるだけでなく、活性酸素種蓄積による酸化ストレス応答を誘導する。宇宙滞在では適切に遮へいされた宇宙船・宇宙ステーション内で生活・作業することから、比較的低い線量での長期被ばくが考えられ、DSB損傷の発生はわずかとなり、酸化ストレスの影響が相対的に高まることが予想される。
原爆被ばく者に関する長年の研究から100mGy以上の被ばくでの発がん影響は明らかであるが、一方で近年、高線量被ばくでは炎症系サイトカインを介して、循環器系疾患との関係が示唆されつつあるが、その作用機序は明らかでない。高線量被ばくで誘導される微小核(DNA修復異常で残存した染色体片から形成)の一部にcGASが集積し、その活性化を介して炎症系サイトカインが発現、細胞外に分泌され、周辺細胞へ細胞老化(恒久的増殖停止)を誘導すると報告された。さらに、宇宙飛行士から宇宙滞在後採取したリンパ球細胞で微小核が検出されるという報告があることから、宇宙放射線被ばくにより微小核が形成し、形成された微小核がcGASの活性化を通して炎症系サイトカインを発現・分泌し、周辺の非被ばく細胞へ細胞老化を誘導して細胞・組織機能低下を起こす可能性が考えられる(下図)。
それゆえ、本研究では宇宙長期滞在での被ばくで起こりうる比較的低い線量において、血管内皮細胞におけるcGAS依存的な微小核形成を介した細胞影響・細胞応答(細胞機能低下・細胞老化等)を、宇宙放射線に含まれるγ線、α線照射(特に低線量[率]照射)において検討することにより、血管内皮細胞に対する放射線影響の機構・その循環器系疾患への関与の可能性を明らかとし、宇宙空間長期滞在における宇宙放射線の循環器疾患へのリスク評価のための情報を提供することを目的とする。