力刺激と代謝、宇宙飛行士と寝たきり老人の接点を分子生物学的に解明する- 公募研究 2018-2019

  1. A01 小椋
  2. A01 高橋(秀)
  3. A01 高橋(智)
  4. A01 道上
  5. A01 檜井
  6. A01 湊元
  7. A01 二川
  8. A01 茶谷
  9. A01 川上
  10. A01 秋山
  11. A01 冨田
  1. A02 篠原
  2. A02 三枝
  3. A02 前川
  4. A02 安部
  5. A02 大神
  6. A02 河野
  7. A02 高野
  1. A03 鈴木
  2. A03 中村
  3. A03 原田
  4. A03 小林
  5. A03 宮本
  6. A03 舟山
  7. A03 柿沼
  1. B01 ラザルス
  2. B01 加藤
  3. B01 國枝
  4. B01 北宅
  5. B01 沢野
研究課題名 力刺激と代謝、宇宙飛行士と寝たきり老人の接点を分子生物学的に解明する
研究代表者
小椋 利彦

元NASA宇宙医学研究者ヴァーニカスが『宇宙飛行士は早く老ける?—重力と老化の意外な関係』(朝日選書)という書籍で詳述しているように、無重力下で宇宙飛行士に出現する症状は、地上で一般的な生活を送っている高齢者が抱える問題と類似点が多い。この事実は、幾つかの重要なポイントに結びついている。すなわち、1)重力という物理的力刺激が生体の恒常性維持に重要であること、2)物理的力刺激の受容/反応系メカニズムの研究が老化の理解にも直結し、高齢化社会となった日本において喫緊の課題となること、しかし、3)物理的力刺激の受容/反応系の分子実態に関する研究に未解明な点が多く残されていること、などである。

一方、物理的力刺激がどのように細胞に認識され、どのような生化学反応に変換されるのか(いわゆる mechano-transduction)という問題は、分化/発生、がん、代謝、循環恒常性など、多彩な生命現象で極めて重要であることが近年認識されるようになって、mechanobiology という新分野の隆盛につながっている。

本研究は、このようなmechanobiologyの視点から、力刺激の重要性を骨格筋代謝変換と結びつけ、宇宙飛行士や寝たきり老人に顕著な筋萎縮、代謝疾患のメカニズムを解明し、その予防/治療法に結び付けようとする研究である。

我々はこれまで、骨格筋に分化する C2C12 細胞を用いて力学刺激による分化動態の解析を行ってきた。その結果、馬血清などの生化学的シグナルが無くても、反復伸展刺激を加えることで骨格筋分化が起こり、網目状のパターン形成も起こることを見出した(図)。興味深いことに、伸展によって分化誘導された骨格筋と生化学的に誘導された骨格筋は、エネルギー代謝の面で大きな違いがある。このことは、力学刺激が、骨格筋の分化以外にエネルギー代謝を調節することを意味している。同時に、この分子メカニズムを解明することで、骨格筋の代謝を高め、無重力下の宇宙飛行士や寝たきり老人の骨格筋エネルギー代謝を賦活し、廃用性萎縮を防ぐ方法につながる可能性がある。理想的には、力学刺激(運動)を模倣した薬剤を作り、長期の病臥、宇宙飛行でも廃用性萎縮を防ぎ、かつ、活発な骨格筋代謝によって肥満や糖尿病の発症も抑制できる。

本研究は、運動模倣治療の開発を念頭に、C2C12細胞の筋分化モデルとして、力刺激による骨格筋の代謝調節機構を解明する。