骨格筋および末梢循環における力学的負荷の重要性の解明- 公募研究 2018-2019

  1. A01 小椋
  2. A01 高橋(秀)
  3. A01 高橋(智)
  4. A01 道上
  5. A01 檜井
  6. A01 湊元
  7. A01 二川
  8. A01 茶谷
  9. A01 川上
  10. A01 秋山
  11. A01 冨田
  1. A02 篠原
  2. A02 三枝
  3. A02 前川
  4. A02 安部
  5. A02 大神
  6. A02 河野
  7. A02 高野
  1. A03 鈴木
  2. A03 中村
  3. A03 原田
  4. A03 小林
  5. A03 宮本
  6. A03 舟山
  7. A03 柿沼
  1. B01 ラザルス
  2. B01 加藤
  3. B01 國枝
  4. B01 北宅
  5. B01 沢野
研究課題名 骨格筋および末梢循環における力学的負荷の重要性の解明
研究代表者
冨田 拓郎
  • 冨田 拓郎
    信州大学学術研究院医学系 医学部 分子薬理学教室・准教授
    Website
    http://
研究協力者
  • 西田 基宏
    自然科学研究機構 生命創成探究センター・教授
  • 西村 明幸
    九州大学大学院 薬学研究院・講師

目的

運動が有する健康の増進効果は広く認められ、その分子機構解明を通して、多くの疾患の予防および予後改善のための医療応用が求められている。しかしながら、運動の持つ健康増進効果の分子機構は未だ明らかにされていない。人体は、宇宙環境においては、重力の減少により、人体機能の変化が多く観察されている。最も大きな変化は、重力の喪失による筋組織(心臓・骨格筋)の萎縮である。この変化は、地上において、寝たきりの患者においても見られる変化であり、寝たきり患者においては、通常生活を送っている同疾患の患者に比べて、予後が不良であることが明らかにされている。すなわち、人体は日々の生活においても、地球の重力に対して、抵抗し、それが筋組織恒常性の維持に関わることが強く示唆されている。本研究では、この重力運動喪失により引き起こされる筋組織の萎縮機構を、力学的負荷の減弱が血液循環を支える骨格筋および末梢血管に与える影響に焦点をおき解明し、筋萎縮を予防する新規医療技術の開発基盤を開発することを目的とする。前期公募期間において、我々は、非選択的カチオンチャネルTRPC3がNADPH oxdidase 2 (Nox2)と機能的複合体を形成し、過剰なROS産生を介して心筋の萎縮や柔軟性低下を起こすことを、心不全モデルマウスを用いて明らかにした。その過程で、自発運動がマウス心臓のTRPC3, Nox2発現量を減らすことも見出した。これら知見から、TRPC3-Nox2機能連関が、筋組織に共通する力学的負荷の減弱を感知して機能亢進する「減負荷センサー」であると推察された。そこで次のステップとして、骨格筋や末梢血管平滑筋組織におけるTRPC3-Nox2機能連関の病態生理学的重要性を解明する。

これまでの研究概要

  1. TRPC3-Nox2機能連関による心臓の硬さ制御
    組織の線維化は多くの疾患において機能不全を起こした終末期における病態として認識される。心臓においても、長期的な機械負荷刺激が間質の線維化を惹起することが知られている。本研究において、我々は、TRPC3がNADPH oxidase 2 (Nox2)と安定複合体を形成し、機械的伸展誘発性のROS産生に寄与することを明らかにした。TRPC3欠損マウスを用いた結果、大動脈狭窄による圧負荷で惹起される心肥大は全く抑制されなかったものの、心臓の酸化ストレスと線維化(硬化)がほぼ完全に抑制されていた。以上のことからTRPC3-Nox2機能的連関は、機械的ストレスによる心臓の硬化(線維化)を誘導する重要な役割を果たしていることが示唆された。Kitajima et al., Scientific Reports 2016 6:37001, Numaga-Tomita et al., Scientific Reports 2016 6:39383
  2. 抗がん剤による心萎縮におけるTRPC3-Nox2機能連関の役割
    ドキソルビシン(DOX)は様々な悪性腫瘍に有効な抗腫瘍薬である一方で、重篤な心毒性が副作用として問題視されている。DOX投与マウス心臓ではTRPC3とNox2の発現量が増加しており、Nox2発現増加率と心重量低下が正に相関していた。DOX投与マウス心臓では低酸素シグナルが活性化しており、低酸素ストレスがTRPC3-Nox2複合体形成を促進している可能性が示された。以上の結果よりTRPC3-Nox2複合体阻害がDOXによる心毒性軽減につながる新たな分子標的となることが強く示唆された。

本年度の研究計画

(1)低力学的負荷および筋障害性ストレスによる筋組織および血管組織への影響解析
マウス後肢懸垂モデル等を利用して低力学的ストレスに惹起される筋萎縮においてTRPCチャネルの発現変化および筋萎縮との関連性を明らかにする。これまでの研究では、心筋萎縮にTRPC3-Nox2の機能連関が重要であることは明らかにしてきたが、その詳細なシグナル伝達機構の解明には至っていない。そこで、TRPC3-Nox2の機能連関の下流因子を明らかにすることにより、筋萎縮のメカニズムの詳細を明らかにする(図)。また、低力学負荷と各種筋障害性因子誘発性筋萎縮の共通性を明らかにするため、抗がん剤ドキソルビシン(DOX)投与モデルを用いて、同定された筋萎縮因子の変動について解析する。

(2)骨格筋における血管網の発達と筋萎縮との関係性の解明
大腿動静脈の結紮は、下流骨格筋における一過的な虚血とそれに続く血流の低下を誘導する。下肢虚血は、骨格筋の障害と修復を術後初期の段階で誘導する。そこで、このマウスモデルにおいて、骨格筋の障害とその後の回復におけるTRPC3/C6の関与を明らかにする。また、上記(1)の研究で用いられる後肢懸垂処置を施したマウスにおいて、血管数の減少が報告されていることから、骨格筋の萎縮レベルと血管数及び径との相関を解析することで、骨格筋と末梢循環の力学的負荷における関係性を明らかにする。