領域代表あいさつ

古川 聡

こんにちは、領域代表の古川聡と申します。医師かつ宇宙飛行士である私は平成23年、5ヶ月半の宇宙滞在で極限的ストレスを経験しました。それは例えば無重力による骨格筋の萎縮、体液シフトによる頭重感、閉鎖環境による体内リズムの不調、宇宙放射線被ばく、微生物リスク、等々。「これらは相乗的に作用するのでは?地上でも関連する問題があるのでは?」との問いから、統合的な連携研究が必要との強い認識に至りました。宇宙で遭遇する生物学的リスク・ストレスの解明とそれらの回避・軽減を目指し、同時に現代の超高齢化・ストレス社会の克服につなげたい。そう願い、新学術領域研究チームの結成を決意しました。この度、新学術領域研究「宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解」(略称:宇宙に生きる)の設立が認められ、平成27年度から31年度までの5カ年にわたる研究プロジェクトを実施することになりました。

宇宙というとどこか遠い存在で実生活とは無関係とお考えの研究者の方が多いのではないでしょうか?しかし、宇宙で身体に起こる事象を生命体の可塑性・破綻の観点から解明すれば、地上の研究だけでは気づかなかった微生物からヒトまで生命の持つ新たな秘密を知ることができるでしょう。それらの知見は将来火星などに向かう超長期宇宙滞在や、人類宇宙移住時に役立つとともに、現代の超高齢化・ストレス社会の克服にもつながり、地上の我々の生活もより豊かにしてくれることでしょう。このように宇宙という切り口でチームを作り、かつ皆様のご研究・アイデアもお借りし、領域研究を進めていきたいと考えております。

宇宙から生命を俯瞰することによって、「当たり前に過ごしている地球環境に秘められた生命機能を発見できる」と考えています。さらに発展させて、宇宙環境を起点とした生命恒常性の維持とリスクの学理構築を目指します。この研究により、宇宙に生きる安全を担保するとともに、生体の重力依存性による筋萎縮、前庭系や循環器系への影響、閉鎖環境ストレス、睡眠障害、放射線や紫外線被ばくの影響、さらにそれらの複合的な関与などを解明し、高齢化・ストレス社会の克服や安全な環境づくりへも貢献したいです。さらに、若手を育成し、若者の夢を育む研究を目指します。

平成27年8月吉日
領域代表:国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 主幹開発員 古川 聡